2023年登封滞在記②

●17日(前編)
二日目。朝5時半に起き、まずはホテルの中庭で練功。このホテルは元々師父の武館で、2011年頃に閉館したのをその後登封で複数のホテルを経営する師兄が借りて新たにホテルにした所。なので練功もいつもの馴染みの場所で。師父のお宅も歩いて行ける近所で便利。

何本か拳を打っていると師父が来られて、早速長護心意門拳の検査を受ける。今回は21日から23日まで登封で行われる「第一回嵩山武術大会」に出場する事が決まっているので、その準備の意味もある。とは言ってもやる事は普段通り、これまでの内容を更に厳密に仕上げるだけ。演武試合用に改変などは一切しない。

師父からの久しぶりの指導を受ける。ベース=基本功夫や架の部分では大まかな手直しはなく、むしろ概ねよい評価を頂けて安心した。しかしひとつひとつの動作や繋がりなどに関しては打点がぶれている所、連続動作で自分の都合のよいリズムになっている所など、まだまた多くの指点を頂き至らなさを実感した。しかしその指点に従っていくと力や速度、節奏感などが正され、拳がどんどん最適化していくのが感じられた。

やはり師の存在は有り難い。

練功後は師父・ 師娘と近所に出来た水煎包(焼肉まん)のお店で朝ごはんを食べた。1個1元、それを4、5個食べて豆乳か粟のお粥でお腹一杯になる。

朝ごはん後の午前中、劉振傑老師が迎えに来てくれて磨溝へ。磨溝村は少林寺から東に約30キロにある「教師窩」と呼ばれる古い少林拳を伝える武術村。当門の祖師爺・凌斗が学んだ源流の地である。

磨溝に着いてすぐに范富中老師のお墓参りに行った。范老師は2006年に初めてお会いして以来、毎回磨溝武術の教えを受け大変お世話になった方。凌斗も学んだ磨溝拳の研究を通して、現在我々の練っている長護心意門の成り立ちを深く掘り下げる事が出来た。 私は范富中老師の拳風、人柄を本当に尊敬しており、王宗仁師父と並んで生涯の目標とする師として仰いでいた。

その范富中老師は2020年7月に84歳で帰西された。報せを受けすぐにでも駆けつけたかったがコロナ禍でそれも叶わず、随分と遅れた対面となってしまった。いつだったか「今度はお前の子供も連れて来いよ」という范老師に「今はまだ小さいからもう少し大きくなってから来ますよ」と返したら「それじゃあ儂はもう居らんかも知れんよ」と笑いながら言った顔が思い出される。結局約束は果たせずじまいとなってしまった。

范老師のお墓は磨溝村の外れの畑の中にあった。特に墓碑のようなものは無く、お供物用の石の台があるだけだった。遅れて来た事を詫び、香を焚いて紙銭を焼いた。范老師の居ない磨溝に来るのは寂しい。もう磨溝に行っても厳しく拳を教えてくれる人は居ない。それでもまた范老師や凌斗祖師爺の魂に触れるため、次回もまた此処に来ると思う。

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