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2013年03月の記事は以下のとおりです。

登封紀行 2013年3月 その3

註:今回もマニアックな話題が続きます(笑)

時系列は前後して登封2日目。登封市区の東に位置する唐庄という場所に陳光栄老師をお訪ねしました。陳老師とは5年前、ほんの短い時間でしたがお会いして、七星拳の套路を見せて頂いた事があります。

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が、今回詳しくお話を伺って、今まで大きな勘違いをしていた事が判明。てっきり陳老師の武術は磨溝村(「その2」参照)で教わったものとばかり思いこんでいたのですが実はそうではなく、陳老師の師父は陳發旺という方で、なんと私の曾お爺さん先生である凌斗の弟子の一人だったのです。つまり我々と同じく凌斗を祖とする、もう一系の流れと出会った事になります。

***

ここで少し解説を入れておきます。
そもそも磨溝という土地は元代の伝説的な少林僧・緊那羅を始祖とする、登封でも有名な「武術村」の一つで、代々古伝の少林武術を護り伝えてきました。

凌斗祖師爺(1872~1954)は磨溝で岳父の范朝元に就いて武術を学び、後に少林寺村と凌斗祖師爺の実家のある凌家門(磨溝から山一つ越えた所にある)に拳を伝えました。

凌斗祖師爺の伝えた拳は基本構成は変わらないものの、磨溝のそれと比べて「大動作はより大きく、小動作はより小さく」練るという特長があります。また随所に小動作が多く含まれ、発力は爆発力が明確で、総じて緊密な印象を受けます。

また磨溝拳の核心套路である小洪拳を「長護心意門拳」と改名して伝えており、これがそのまま凌斗の伝えた門の名称ともなっています。

***

さて、思わぬ所で親戚筋に出会ったという事で、ここぞとばかりに色々なことを質問させて頂きました。

ファイル 230-2.jpg

同じ凌斗の門でも、王頂一を経て伝わったものと、陳發旺を経て伝わったものには、やはり若干の違いがあります。凌斗が弟子の特性に会わせて教え方を変えたとも考えられますし、また教わった側の重視する観点の違いから動作表現が異なっているとも考えられます。

しかし重要なのはその一門の「核心」を貫いているという事。こうして親戚筋の拳を検討する事によって、本来拳(套路)に含まれている変化の広さ・可能性を知ることが出来るわけです。

ファイル 230-3.jpg※表面上の違いはあってもやはり同じ血統を受け継いだ拳です。その実感がまた面白い。
ファイル 230-4.jpg

根ほり葉ほりの面倒な質問にも丁寧に答えてくださり、また貴重な長護心意門拳の全套まで見せて頂き有り難うございました。謝謝、陳老師!!

登封紀行 2013年3月 その2

登封市区から北東に約20Km行った山間に、磨溝という村があります。ここは私から見て曾お爺さん先生にあたる凌斗祖師爺(1872~1954)がいた土地です。凌斗祖師爺はこの磨溝村で岳父(妻の父)の范朝元に武術を学び、後にそれを少林寺村の王頂一師爺ほか、数名の弟子に伝えました。

2006年に師父に連れられて初めてこの村を訪れて以来、祖師爺の足跡を辿り、現地の拳を学びながら様々な調査を繰り返してきました。

そして今回はこれまでの集大成、失伝寸前だった磨溝陸合拳の発掘整理を遂に完了しました!

私が初めて磨溝を訪れた2006年の時点で、当地の武術はかなりの内容が失われていました。原因は伝承者の不在と、これまで伝承を護ってきた拳師達の高齢化です。

ファイル 229-1.jpg※かつて練功房だった祀堂も倒壊して久しい。

幸いな事に核心部分の小洪拳と老洪拳、そして大刀は辛うじてまだ残っていたのですが、二人で行う対打の陸合拳は、第一節から第六節までを完全に打てる人は既にいなくなっていました。

●発掘

発掘は土の中からでなく、人々の記憶から行います。

范福中老拳師を中心に、かつて范老師に就いたことのある40~50代有志が集まり、徹底的に検討を繰り返します。いずれもここ20年近く全く練習していないので、記憶はかなり断片的です。

まずは第一節から第六節までの名称を思い出します。陸合拳は重複する基本構成の上に各一節毎に特徴的な動作があって、それが各節の名称となっています。「第一節:踢一還三」、「第二節:斬子朵子」……という様にして、各節の大まかなディティールを浮かび上がらせます。

ファイル 229-2.jpg

そこからは各々が覚えている動作の断片を「ああでもない、こうでもない」と照合し、実際に何度も打ってみて感覚を思い出していきます。実際に現場にいないと解りづらいかも知れませんが、こういう時、その門派独自の「攻防に対する感性」や「リズム感」が大いに発揮されます。

ただ単に動作を繋ぐだけではいくら綺麗に攻防が成立していても、やはり感性のどこかが「気持ちが悪い」とアラームを鳴らします。

その点、范福中老師のセンスは抜群でした。「第一節はどうでしたっけ?」と問うても「忘れた、思い出せない」と仰っていたのが、我々がどうにかこうにかある程度の形にまでしたものを見て「不中!(ダメだ!)」と一喝。やにわ立ち上がり、いくつかの動作を訂正して、正に「仏像に魂を入れる」が如くでした。

ファイル 229-3.jpg

後半はこのスタイルが確立し、かなりよいペースで復元が進み、ついに「これで完成」という所までこぎ着ける事が出来ました。


実際、この復元に5年近くかかりました。これを見たある人は、「みんな近所なんだから、ぱっと集まってやればすぐ出来るだろう」と思うかも知れませんが、現地での人間関係、時間の制約、そして何よりも「機」。

思い出せと言われて思い出せるなら、どんなに簡単な事でしょう。しかしそうも行かないのが人間の記憶の難しい所でもあり、面白い所でもあります。今回は実に色々なタイミングや環境がうまく合わさって、一気に復元までいく事が出来ました。本当に協力してくれた現地のみんなに感謝です。

「100%原型と同じか」と言われれば、それは誰にも解りません。しかし限りなく100%に近い形に復元できている事は間違い有りません。今後は数年をかけて磨溝の老人達に見せて廻り、老前輩方の感性に問うてみようと思います。

そうした中でまた面白い発展もあるかも知れません。

~「その3」に続きます~

ファイル 229-4.jpg※向かって左から范三(范福中老師の息子さん)、劉振傑、范福中老師、私。

登封紀行 2013年3月 その1

3月19日~24日までの6日間、少林寺のある登封に行って来ました。

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まずは恒例の師父による検査を受けます。検査内容は当門の核心套路である長護心意門拳と七星拳。これだけは外せませんし、この関門をクリアしない限り登封で計画している全ての活動は「おあずけ」です。

幸い一発で合格を貰ったのでほっとしました。

それにしても師父に就いてのたった数日の練功は、日本で行う練功の一年分以上に匹敵するという実感。今回も少林拳の根本原則的な動作である「十字通背」について、重要な指針を頂きました。


そして今回もう一つの練功面で収穫。それは鄭樹基老師より耳巴陸合拳を学べた事です。

耳巴陸合は凌斗祖師爺が伝えた当門の踢打陸合とはまた別の、李根生前輩(1893~1962)が伝えた対打の套路です。踢打陸合が徹底して相手と「合わせる」のを主眼としているのに対し、耳巴陸合は実に「破る」事を主眼とした攻防意義が非常に突出しています。

教えて下さった鄭老師の手も非常に厳しく、改めて少林門の老拳師の、「実」を追求する気概を身を以て体験しました。

ファイル 228-2.jpg※登封を代表する50~60代伝統拳師の揃い踏み。向かって右から鄭樹基老師、張鉄印老師、耿合営老師、王宗仁師父、私。何故かみんな綺麗に並んでいます。

また鄭老師が教えて下さるに当たって「王老師がお前の練習相手をしなければ教えることは出来ない」とのお達しで、何と!師父とこの套路を練ることになり、いつも踢打陸合を練る時とは別の、師父の「攻防」を体験できたのは実に貴重でした(とても痛かったです;)。

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呉風高老師には毎回主に小洪拳・炮拳・太祖長拳などの当門にとっては外門にあたる套路のご指導を頂いています。今回伺っての第一声は「お前、あれは継続してやっているか?」との事で小武功(根節功と呼吸・全身の統一を練る功法のひとつ)をきっちり検査して頂きました。

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実は呉老師は王頂一師爺にも師事された事があります。今回七星拳について前から疑問に思っていた事について伺い、確証を得ることが出来ました。興味のない人にとっては実にどうでもよい事ですが、これで七星拳について、正式に当門の拳師について学んだものなのか・そうでないか、確実に判別できるようになりました。

~「その2」に続きます~

錦糸町で少林拳

読売文化センター錦糸町で少林拳講座が開講します。

講師は当会の清水佳彦教練。
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元々殺陣師・アクション指導として相当なキャリアを持っていましたが(ネットで検索すると色々経歴が出てきます)、当会の第二武術班の第一期生として入門。以後着実に功夫を積み、中国少林寺・登封県研修にも何度も参加した本物です。

指導経験も非常に豊富なので、しっかりとした「伝統武術」の意識を持ちながらも初心者には親しみやすく、丁寧に指導してくれると思います。

4月6日には体験講座も行いますので、錦糸町近隣で伝統少林拳に興味のある方は是非!

●詳細はこちらをご覧ください
http://www.ync.ne.jp/kinshicho/kouza/201304-11270010.htm

出ました!

  • 2013/03/06 23:39
  • カテゴリー:活動

学研から新しい中国武術の本が出版されました。書名は『完全保存版 中国武術大全』です。私も少林拳の項で取材協力しました。

中国全土に100以上もあると言われる中国武術各派の中から、代表的な門派の歴史と特長を紹介しています。また中国武術の技法を写真とイラストで展示している他、「異文化を学ぶ難しさ」、「秘伝とは何か?」など中国武術に絡んだちょっとしたコラムが多数掲載されています。

中国武術の世界を大まかに知るのには便利な一書です。写真が沢山あるのでざっと見渡しても結構楽しめると思います。

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元々は『中国武術 最強の必殺技FILE』という小さいサイズの本だったのですが、今回のリニューアルに伴い版も大きくなり、オールカラー化されました。内容も再編集と写真や記事の追加がされて、全体的に豪華になった印象です。

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